空中散歩ブログ

そらなか004の思い出の保存庫です

甘い甘いお話

 先日ここで、我が部屋で毎日開催されてている、かつて買い集めた江戸落語のカセットテープを小さなラジカセで聞き返す行為「ラジカセ寄席」の話をして、柳家小三治さんの「時そば」という音源は、小三治さんがおソバをすすりあげる音に猛烈に食欲をそそられる。カップでもいいからソバを食いたくなる...なんて書いたけど、その小三治のソバを啜る音とおなじくらいの食欲をそそってくる音源の話を今日はしたいと思います。

  昭和の大名人、「黒門町の師匠」こと八代目・桂文楽の「明烏(あけがらす)」。私が持っているカセットテープは20年以上前に書店で買った、「ちくまカセット寄席」なるシリーズの中の一本。筑摩書房から出ているカセット文庫で、テープのケースの仕様が、同社から出ている「ちくま文庫」そのままになっています。

 

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 「明烏」という噺についての詳細はウィキペディアで。 → 明烏(Wikipedia)

 大店の旦那に頼まれ、堅物の息子(若旦那)を吉原へ女郎買いに連れてった源兵衛と多助。結果的に若旦那の方は花魁にたっぷりその道の楽しさを教えてもらうことになるのだけど、肝心のお二人の方はさっぱり。どちらも相方の花魁には振られてしまう(要するに花魁といい思いは出来ず)。

 

 翌朝、花魁が来ずそれぞれ一人でつまらぬ夜を過ごした源兵衛と多助は、ブツクサ文句を言いながら、若旦那を連れ帰るために部屋へ押しかけるが、そこで二人が見たものは...

 振られた二人が愚痴りあってる場面で、どちらか一方が店の箪笥の引き出しから失敬してきた甘納豆を口に放り込みながらしゃべっているのだけど、この場面での文楽師匠の「納豆を食う男」の描写が絶妙なのですわ。音声で聞いてるだけでも、口の中に砂糖の甘さと甘納豆のあの食感が広がっていくんです。いつの間にか、食いながら男が言う「これで、濃い宇治(茶)があれば言うことなし!」に、心底同意したくなっているんです!

 私にとっては、嫌いではないけれど自らすすんで買って食うほどでもないお菓子だった「甘納豆」を、時々無性に苦いお茶付きで食べたくなるお菓子に変えてくれたのは、間違いなくこの噺のあの場面を演じる八代目・文楽でした。(笑)