空中逍遥ブログ

そらなかのちょっと長い呟きです。

遠い夏のウソ

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 小学校の4年生の時だったか、夏休みのある日、同級生のSから電話がかかってきました。彼曰く「いいこと教えちゃる。俺んちの近くの雑木林に、いつもノコギリクワガタやら大きなカブトムシが5、6匹はいる木があるんじゃ!AやらBも採りに来るって言いよるけぇ、お前も来いや。3時に俺んちに集まることになっとるけえの!」

 私の家から自転車で10分くらいのところにSの家はありました。確かに彼の家の近くには雑木林があって、私も付近を通ったときに遠くからながらも眺めたことがありましたが、松やら竹やら杉が生い茂っているだけで、カブトムシやクワガタムシがやってくるようなクヌギだの栗だの楢だのといった木があるようには、どうしても見えませんでした。そんな疑問点はあったものの、なにせ当時は昆虫大好き少年だった私、勇んで指定の時間通りに彼の家に出向いて行きました。Sの家には既に、期待に胸を膨らませたクラスメートのAとBが虫かご持参で来ていました。私と違ってSの家からは離れた所に住んでいるAとBは、私のような疑問を抱いてはいなかったようです。

 さて、皆集合したし、いざカブトムシやクワガタムシの採集に出かけよう!って段になったのですが、ここへきて急にSがなにやら浮かない表情をしているんです。「あののう...お前らが来る前に雑木林に下見に行ってみたんじゃが、カブトやらクワガタが来る木が切られてなくなっとったんじゃ...今朝方、近所のおじさんが切り倒しちゃったんじゃと」

 「えぇーっ」「なんじゃ、そりゃあ」「ホンマかあ!?」とビックリしたり落胆の表情をしたりの我々3人にSは、やや笑みを浮かべて言いました「せっかく来てもろうたのにスマンのう。しょうがないけん、お詫びにこの間買ってもらったばかりの野球ゲームやらしちゃる!」

 そこですべてが解りました。彼が言う野球ゲームは、当時出始めたばかりのTVゲームで、昨今のゲーム機やゲームソフトと比べたら笑っちゃうレベルのシロモノですが、当時は最新型のゲーム。要するにSは、このゲームを我々3人に見せびらかしたいのと、ゲームの相手をしてもらいたいだけだったのです。当然、カブトムシだのノコギリクワガタだのは全部ウソ。あとでわかったことなのですが、そもそもあの雑木林は、中に古くて深い溜め池があるから危険とのことで、随分昔から立ち入り禁止になっていたんです。雑木林への入り口になりそうな箇所には、子供が間違って入らないようロープが張ってありました。

 思えば、以前からクラスメートの気を引くためにしょうもないウソをつく子でした。幽霊やUFOの目撃憚にはじまって、ある時は、幼稚園の頃に子役をやっててTVに出たことがあるなんて言ってたこともあるし、○○○○って漫画ならウチに全巻揃ってるってSが言うんで、見せてもらいに彼の家に行ったら、お姉ちゃんが全部友達に貸しちゃってて無かった...ってな話を聞いたこともありました。そんな風だから、いつの間にかクラスメートの大半から敬遠されるようになっていた子でした。この時の私も、カブトムシ、クワガタムシの話に釣られなければ、おそらく彼の家に行くことなどなかったでしょう。

 で、確か、この後、仕方なく2時間くらいSの野球ゲームに付き合ったんだと思います。ゲームの最中のSの嬉々とした顔は忘れられないですね。この日以降、おもむろに避けたりはしなかったものの、Sにはより心の距離を置くようになりました。恐らくAも、Bもそうだったんじゃないかな...

 

 以上、昨夜、ウチの灯りに釣られてやってきて、私の部屋の窓の網戸に張り付いていた小さなカブトムシを見て思い出した、30年以上前の夏のある日の出来事でした。